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Aodix Tracker について少し語る

Technopolisのカバー曲データ

Technopolisのカバー曲データをいじってみている。今日はベース音をいじっていた。やっぱりSynth-1の最新バージョンは低音がよくなっているような気がするなぁ。聴いててアナログっぽくてゾクゾクしてくる。 そのせいでベースいじりで数時間も費やしてしまった。。それほどまでに楽しい作業だ。好きでないと何が楽しいのか理解しがたい世界かも。 上の動画のバックに映っているシーケンサーみたいなものはAodixというものである。これはMOD Trackerの流れを汲むVSTホストアプリである。
今回はAodix Trackerについて書こうかなと思うが、その前にMOD Trackerについておさらいしておこう。

MOD Trackerとは

MOD TrackerというのはMODファイルというサンプルデータとシーケンスデータが収まったファイルフォーマットを編集するソフトウェアで、コモドールAmiga発祥である。 上のスクリーンショットはSound Trackerというソフトウェアの画面である。MOD Trackerの特徴としては、
  • 内蔵サンプラー(再生のみ。録音もできるものもある)とシーケンサーの機能を有している。
  • シーケンサーはパターンエディタで各トラックのシーケンスデータのフラグメント(パターン)を作り、シーケンス(ソング)で曲を構成する。パターンに番号を付け、シーケンスでパターン番号を並べどの順番で演奏するかを決める。
  • 基本打ち込み(ステップ入力)のみである。
  • トラックは横方向・シーケンスは縦方向に進んでいく。
  • エフェクトパラメータ(コマンド)列があり、基本16進データで入力・指定する。
  • シーケンス中でサンプルのボリューム・ピッチに対してさまざまエフェクトをリアルタイムでかけることができる。
  • 時間制御はTick,Speed,Tempoで指定(これが結構特殊)
である。
当初MODファイルは4トラックが基本であった。なぜならばAmigaの音源が4CHサンプリング音源であったからだ。 このAmigaというPCはマルチメディアPCというジャンルで一世を風靡する。TVのCG製作やプロモーション・ビデオ製作でも使用されていた。もっともこれはAmigaの持つ「味」を映像表現として利用したもので、いわゆる綺麗な「CG」ではないが。 X68000はAmigaのあとに発売された。音源のスペックを見てADPCMだったのでがっかりした。理由はAmigaのPCM音源のスペックを知っていて、明らかに劣っていたからだ。 MOD TrackerはGravis Ultra Sound/Sound Bluster等のPCM音源を持つサウンドカードの台頭によりIBM PC/ATでも作成された。いくつか有名なソフトウェアがある。2つ挙げるとすると、一つは「Impulse Tracker」、もうひとつは「Fast Tracker 2」である。 MOD Trackerは「デモ・シーン」の発展とともに作成・進化してきたものでもある。上記2つのTrackerもデモのBGM作成用として作られたツールでもある。
「デモ・シーン」について知らない人もいると思うのでちょっと動画を貼っておく。 デモ・コーダーというのはプログラミング・テクニックは「神」の領域である。そういう人たちが作るツールだから当然「使いもの」になっていた。 Fast Tracker 2ではMODファイルフォーマットの拡張形式としてXMファイルフォーマットを使用していた。サンプルとして16ビットサンプルが使用でき、32CH同時発音というものである。エフェクトというのはボリュームとピッチくらいで当時のCPUのパフォーマンスではフィルターやリバーブなどのエフェクトは厳しかった。Impulse Trackerはのちにフィルターを実装したかと思う。 PCサウンドはこのMODおよびその派生形式で一つの時代を築いた。Windows 95誕生前後あたりである。 このXMファイルフォーマットもしくはIT(Impulse Tracker)フォーマットでのソング・データも数多くリリースされ、これを再生するプレイヤーも何種類かリリースされていた。 XMでつくられた曲は数多くあり有名なMOD作者も数多くいたが、その中でも私が一番記憶に残っているのが「Elwood」さんの「Sweet Dreams」という曲である。もう一人好きな作者がいたんだけれども、忘れてしまった。なんだっけかな。。思い出せないね。。 今ではもう古くさいかもしれないけれども、当時聞いたときはPCのみでこんな音楽がリアルタイムで奏でることができるんだ!と感動したものだ。このデータをFast Tracker 2で開いてみたことがあるけれども、もうそれこそ「打ち込みの極地」ともいえる代物だった。 しかもデータ容量は1MB未満である(確か256KB位だったような。。)。XMファイルは究極の手動圧縮テクニック(打ち込みやサンプルの編集で工夫して容量を減らす)によるコストパフォーマンスの良い楽曲フォーマットであった。 MODTrackerは現在DAWで駆逐された感はあるが、それでも「Buzz」,「Renoise」,「Psycle」やその他Trackerは現役で存在しておりアップデートされ続けている。

ああ、Aodixの話だった。。

Aodixは故Juan Antonio Arguelles Rius(Arguru)さんという方が作られた、VSTホストアプリである。最初に書いたようにこのソフトウェアはMOD Trackerの系統を受け継ぎ、進化したソフトウェアであった。 ArguruさんというのはもともとNoise TrekkerというFast Tracker風だがソフトシンセ(TB303みたいな)内蔵のトラッカーを作った作者である。 このNoisetrekkerというソフトウェアは「Renoise」という名前に代わり引き続き改良がつづけられており現役である。 当時、ArguruさんはBuzzのMachine(Buzzのプラグイン。VSTプラグインのようなもの)をたくさん製作されていた。そしてBuzzのMachineに飽き足らなくなったのかBuzzのライセンスに辟易したのかはわからないが、新たなモジュラータイプのTrackerである「Psycle」を作成した。このBuzzというのは第4(3かな?)世代のTrackerと呼ばれていたものの1つで、音源とエフェクターをモジュラー接続して音作りが行えるという当時としては(1990年前半)画期的なものであった。
当時デモ曲として「Computerwelt」のカバーが入っていたがそのリアルタイムシンセシス性に驚愕した。私もしばらくハマりこのソフトは現在も使い続けることになる。 話はPyscleに戻るが、Arguruさんは「Psycle」から開発から退き、ソースコードは他者に提供されオープンソースソフトウェアとなった。このソフトウェアもなんとか生き残っていて、64ビット版もリリースされている。 私も一時期使っていた。このソフトウェアはMFCベースであったのでそれをWTLに移植しようと頑張ってみたが途中で挫折してしまった。その際XMファイルをインポートしXMコマンドを再生できるようにしたXM Samplerというmachineを作りかけて途中で放り出した。それは他の方が継続して開発し、「Sampulse」というMachineとなって完成?した。なので何故か私の名前がcontributorの中に入ってしまっている。若干Psycle界をかき回して去って行ったようで申し訳なく思っている部分もある。 ああ、またAodixの話から脱線してしまった。。 それでAodixの話に戻るが、ArguruさんはPsycleの考え方をさらに推し進め、当時メジャーになっていたVSTプラグインをモジュラー接続し、MODライクにシーケンスするソフトウェアを作成した。それが「Aodix」である。 Aodixは過去MOD Trackerの互換性はほぼ排除されており、どちらかというとMIDIシーケンサーやDAWのいいところを取り入れた作りになっている。Aodixのヘルプより機能を列挙してみる。
  • Trackerのようなパターンシーケンサ。
  • 最大256パターン。1パターンの長さ制限なし。256の独立したマーカーとキュー・レンジ。
  • 256トラック。
  • タイムスタンプ導入による正確な時間制御(960 ppqn)
  • ステップおおよびステップフリーな操作モード
  • VST2.3フルサポート。
  • VSTは256個まで同時にロード可能。
  • モジュラー結線によるVST間の接続。VSTマルチアウトに対応。
  • リアルタイムエディット可能。
  • リアルタイムVSTオートメーション記録。
  • MIDIメッセージをすべて認識、マスクによりMIDIメッセージのフィルタリングも可能。
  • パラメータスケーリング付きのパターン呼び出し(再帰なし)。
  • 32-bit 浮動小数点演算。
  • 32-bit floating point IEEE (multi-)file レンダリング。
  • ASIO出力のみ(1msの低レイテンシで出力可能)。
  • MIDIファイルのインポート。
  • MIDI出力のサポート(MIDI Out Pluginを経由しての)。
Aodixはアーキテクチャを刷新するために、他のMOD Trackerとの互換性を犠牲にした。他のMOD Trackerのソングファイル等は読み込みできないし、もちろんエクスポートもできない。唯一MIDIファイルだけはサポートしているが、まあ使いものになるかというとならない気がする。ツールとしてはとても軽くて、もたつくところがない。 Aodixの特徴的なところを挙げると2つあると思う。1つはモジュラーエディタ、もう1つはシーケンスエディタである。

モジュラーエディタ

下の画面はAodixのモジュラーエディタの画面である。VSTルーティング画面と呼ぶらしい。 左端にあるのがDSK DrumZというドラムサンプラーVSTで、これをGeneCompをかけたのちにイコライザで音質を調整し、さらに各VSTパートとミックスされトータルコンプをかけてMASTER OUTに出力している。このようにエフェクトの関係やルーティングが視覚的にわかりやすいのがモジュラーエディタの利点である。AodixではさらにVSTの出力・入力ごとに結線が可能である。VSTはだいたいがステレオアウトであるのでLR2つの出力を持っているので、ワイヤーが2本ずつ結線される。DSK DrumZはドラムの各パートごとに出力が可能であるので出力がたくさんある。Aodixが特徴的なのは出力1つ1つに結線が可能な点である。なのでバスドラとスネアで別々のエフェクト・ルーティングを行うことが可能なのである。PsycleでもBuzzでも現在のバージョンではできるようになっているが少し制限がある。おそらくAodixのようにはできないだろう。

パターンエディタ

Aodixで良いアイデアだ!と思ったのはこのパターンエディタである。
  • Trackerのようなパターンシーケンサ。
  • 最大256パターン。1パターンの長さ制限なし。256の独立したマーカーとキュー・レンジ。
  • 256トラック。
  • タイムスタンプ導入による正確な時間制御(960 ppqn)
  • ステップおよびステップフリーな操作モード
スペック的には平凡であるが、とても面白いアイデアが採用されている。Aodixでは実はシーケンスという考え方はない。その代わりパターンの中にパターンを埋め込むことで代用する。 この機能は非常に強力である。埋め込むパターンも複数のトラックを持てるし、ノートイベントやオートメーションイベントも混在できるので複雑なパターンシーケンスも容易に実現できる。さらにパターン自体の発音タイミングやボリュームも指定できる。Aodixの場合1パターン内にノートイベントを並べてMIDIシーケンサーのような曲つくりも可能となっている。さらに1トラックに複数ノートを入力でき、コードを1トラックで鳴らすことも可能である。しかしノートデータがトラック上で重なってしまい、編集できるのはピアノロールのみとなってしまうが。この自由度は今までのTrackerにはないものだ。 残念なのはエディット機能が超貧弱なことだ。コピペぐらいしかなくて、エフェクトパラメータを補完する機能は一切ない。入力してからパラメータを一括で修正する機能も簡単なものしかない。このあたりはバージョンアップにより改善していくつもりだったのだろう。でも作者は交通事故で2007年にお亡くなりになってしまった。現在はArguru Softwareのサイト自体もなくなってしまい、バイナリをダウンロードすることもできない。 Arguruさんの遺志を受け継ぎたいわけでもないけれども、若干改良すれば今でも現役で使用できるのでソースコードがあればな。。と思うのだが残念ながらプロプライエタリなソフトウェアなのでそれはもう叶わない。ソースコードを公開する予定もあったようだが。 Arguruさんは多数のBuzz Machine,VST Plugin,そしてNoise 3つのTrackerを作成したものすごい方で